その日は寒気が強く、みぞれが降り、敵も味方も手足が凍えて太刀の柄を握ることができなかった。西風がはげしいので眼を開いて向かうことができなく、途方にくれる有様である。尚安は
「味方の面々、風上に廻りて戦へ」
と揉み合いつつ、采配を振って下知すれば一揉みもんでは引き退き、退いては風上に廻り、敵を風下に見て戦えば、ひとたまりもなく、討たれる者限りない。氏任はかなわないと思い東郷を目指して引き退く。占部は続いて追いかけ、氏任は取って返し、命を限りに攻戦する。 いつ勝負が付くかも見えないところに、蔦山在番の面々(この時分氏貞は白山におり、蔦山の城には番人を置いて守らせていた)がこれを聞きつけ馳せ来るには、許斐・吉田・占部・大和・普喜・伊規須・竹井・竹松・別所・蔦田・牧・秋山...。 >次へ
許斐氏任の謀反:12│3│45